ツェリェは、スロベニアを旅する途中にただ漫然と立ち寄るだけのありふれた中継地ではありません。中世に絶大な権勢を誇ったツェリェ伯の拠点として栄えたこの国第3の都市には、重厚な歴史の地層が今なお色濃く息づいています。高速道路を行き交う多くの旅人はリュブリャナやマリボルへ直行してしまいますが、この小ぢんまりとした旧市街に足を踏み入れる価値は計り知れません。中世の城壁や君主の居館、そして20世紀初頭の市民建築が違和感なく溶け合っています。街歩きに踏み出せば、過去が文字通り何層にも重なり合い、街角のいたるところにヨーロッパ史の息吹が刻まれていることに気づくはずです。

君主の居館と地下に広がる古代ローマの世界
ツェリェが醸し出す威厳の大部分は、かつて街に名声をもたらした名門諸侯の遺産によるものです。「君主の宮殿(Knežji dvorec)」では、その権勢の歴史を肌で感じることができます。14世紀、ツェリェ伯はこの城壁の内側に本拠となる宮殿を構えました。長きにわたり行政の中枢として機能したこの館の地下には、さらに遥かな過去が眠っています。現在の中庭の敷石の真下から、考古学者たちによって古代都市「ケレイア(Celeia)」の遺構が発掘されたのです。地下へ降り立つと、中世の石畳の下に手つかずで眠っていたローマ時代の舗装道路や邸宅の基礎と対面できます。
そこから歩いてすぐの場所には、現在ツェリェ地域博物館となっている「旧伯爵邸(Stara grofija)」が建っています。広場から見上げると、リズミカルなアーケードが連なる堂々たるルネサンス様式の外観が目を引きます。このかつての居館には、この地が誇る珠玉の美術遺産「ツェリェの天井画(Celjski strop)」が収められています。17世紀に描かれたこの木造天井画は、卓越したトロンプ・ルイユ(騙し絵)の技法を駆使して柱や吹き抜けの青空を模しており、この時代を代表する極めて希少な傑作です。
包囲攻撃への備えと荒れ狂う清流への防壁
ツェリェの要衝としての立地は、過去に繁栄をもたらした一方で、幾多の危機をも呼び寄せました。ラズラゴヴァ通り(Razlagova ulica)にそびえる「給水塔」は、16世紀に築かれた重厚な防衛拠点です。オスマン帝国の侵略から手薄な街の南東部を守るとともに、川への出入り口を監視するために建てられました。戦火の危機が去った後は、穀物倉庫として市民の生活に転用されました。
一方、サヴィニャ川の水流は絶え間ない別の脅威をもたらしました。「ナ・オコピフ(Na okopih)」の堤防からは川のパノラマが広がります。この川は数世紀にわたり生命線であると同時に、激しい氾濫の源でもありました。山々から押し寄せる雪解け水の濁流から旧市街を守るため、人々は頑丈な護岸壁や土塁を築き上げました。少し内陸に入ったプレシェルノヴァ通り(Prešernova ulica)には古い公共の泉が残り、かつて職人や町民たちが水を汲みながら市場の噂話を交わした日常の風景を今に伝えています。
広場、疫病の終息、そして近代都市の夜明け
ツェリェの社会・経済の中心となってきたのが、中世以来中央市場として親しまれてきたグラヴニ広場(Glavni trg)です。広場の中央には、18世紀に建立された華麗なマリアのペスト記念柱(Kužno znamenje)が立っています。街を恐怖に陥れた度重なる疫病の終息を神に感謝し、市民たちが建てたもので、バロック期の中央ヨーロッパで広く見られる記念碑です。
同じ広場に面した「現代史博物館(Muzej novejše zgodovine)」の古典主義様式の建築は、より新しい時代の足跡を伝えています。かつて市庁舎として市政が執り行われていたこの建物では、現在、ツェリェとその周辺における激動の20世紀の歴史が展示されています。また、スロベニア唯一の公式な子ども向けギャラリーが併設されている点もユニークです。
世紀末の多様な文化の息吹は、中心部の端、鉄道駅の正面に建つ「ツェリスキ・ドム(Celjski dom)」に見て取れます。急勾配の屋根と角塔を備えた印象的なネオゴシック様式の建物は、ウィーンの建築家ペーター・パウル・ブラングの設計により1906年に完成しました。当初はツェリェのドイツ系市民たちの文化交流拠点として使われていました。街歩きの締めくくりには、サヴィニャ川沿いに伸びる19世紀の市立公園がうってつけです。並木道を散策しながら、清らかな川のせせらぎに耳を傾けることができます。
ここでご紹介したのは、ツェリェの重厚な歴史のほんの序章に過ぎません。アプリ「CityWalkGems」を利用した旧市街ウォーキングツアーでは、この記事では語り尽くせなかった細部の見どころや歴史の謎、隠れた路地を余すところなくご案内します。ツアーをダウンロードして、ツェリェの君主とローマの面影をご自身のペースで体感してみてください。
- 9 スポット
- Regional Museum of Celje 出発地
- ~3,7 km ルート全長
- ~886 m 最長区間
- 約 1,5–2 時間 所要時間
- 無料

